データで読み解く 日本の食料事情

牛乳の生産と消費の構造を探る

日本の牛乳は、全国で生産された生乳を加工して供給されています。生乳の生産は北海道に集中していますが、飲用牛乳としての加工や消費は本州の都市部が中心です。近年、酪農家の減少や高齢化、輸入飼料価格の高騰が課題となっています。加えて、人口減少や牛乳離れにより消費量も減少傾向です。こうした状況に対応するため、生産性の向上や国産飼料の活用、加工品の多様化が進められています。

1. 牛乳の戦後史

戦後の日本では、子どもたちの栄養不足を補うために学校給食が再開され、牛乳の提供が始まりました。 最初はアメリカの支援による脱脂粉乳が使われていましたが、1954年に学校給食法が施行され、牛乳は制度の中に定着していきます。
その後、冷蔵や低温殺菌などの技術が発展し、新鮮な牛乳の安定供給が可能になりました。 こうして牛乳は、学校だけでなく家庭にも広まり、日本人の食生活に欠かせない存在となっていきました。

1950年~学校給食と牛乳普及のはじまり

戦後の栄養改善政策により、学校給食に脱脂粉乳が導入されました。1954年には学校給食法が施行され、牛乳の提供が制度として整えられます。また、冷蔵技術が進歩し、低温貯蔵施設(コールドチェーン)が導入され始めたほか、1950年に「乳等省令(牛乳及び乳製品の成分規格等に関する省令)」が制定され、品質基準も整備されました。

1960年~安定供給体制と学校給食への定着

牛乳の生産・流通体制が本格化し、全国で新鮮な牛乳の安定供給が可能になりました。1964年には全国的に学校給食での牛乳提供が始まり、子どもたちの栄養改善に大きく貢献しました。

1970年~保存技術の進化と牛乳流通の変化

超高温瞬間殺菌法(UHT)が導入され、常温保存が可能なロングライフ牛乳(LL牛乳)の普及が進みました。保存性の向上により、流通や家庭での扱いやすさが増しました。

1990年~乳製品への消費スタイルの変化

牛乳の消費量は1990年代後半にピークを迎えた後、減少傾向にあります。健康志向の高まりや飲料の多様化に加え、加工乳製品(ヨーグルト・チーズなど)へのシフトも一因と考えられます。

2. 牛乳の生産・流通

日本における牛乳の生産量は、食生活や流通環境の変化を反映して、年ごとに増減を続けてきましたが、1990年代をピークに、近年は生産量の減少が目立ちます。

✅減少が続く牛乳の生産量、その背景とは

国内の牛乳生産量は1996年に約422万klでピークを迎え、その後減少傾向が続いています。業務用も含めた集計が始まった2003年以降のデータを見ても、2023年には約309万klとピーク時の8割程度にまで落ち込んでいます。この背景には、国内の乳牛飼養頭数の減少や酪農家の離農が進んでいることが挙げられます。さらに、飼料価格やエネルギーコストの高騰など経営環境の悪化、後継者不足などの構造的課題も影響しています。
また、消費面でも飲用牛乳の需要が長期的に減少しており、ヨーグルトやチーズといった加工乳製品へのシフトが進んでいることも、生産量の減少に拍車をかけています。

牛乳乳製品統計調査 牛乳等生産量累年統計(昭和60年~令和5年)(農林水産省)を元に当サイト作成, 2002年までは直接飲用用の牛乳のみを対象としていましたが、2003年以降は業務用も含めた数値となっています。

✅生産量トップは北海道、関東近郊も主要な生産地

牛乳の生産量が最も多いのは北海道ですが、神奈川県や茨城県、千葉県、栃木県など、関東近郊も上位に位置しています。これは、首都圏という大消費地への安定供給を支える重要な地域であることを示しています。

なお、北海道は「生乳(しぼったままの牛の乳)」の生産量で見ると全国の約半分を占めていますが、そのうち飲用用に加工・出荷される量は全体の15%ほどにとどまります。加工用途(チーズ、バター、脱脂粉乳など)への振り分けが多いためです。

下のグラフと地図は、牛乳の生産量を都道府県別に示したものです。上位10県のグラフと、日本地図上の生産量分布を合わせて見ることで、地域ごとの供給構造が把握できます。

牛乳の生産量 都道府県別割合(令和5年)

牛乳乳製品統計調査 令和5年 牛乳乳製品統計(農林水産省)「8. 飲用牛乳等生産量(都道府県別・月別)」を元に当サイト作成
ここで示している生産量は、工場で製造された「牛乳等」の数量を指しており、生乳そのものの生産量とは異なります

✅ 牛乳のタイプと特徴まとめ

牛乳は成分、加熱殺菌方法によって、いくつかの種類に分類できます。

🔹成分による分類

通常の牛乳の原料は生乳100%であり、成分は無調整です。牛乳以外に原料は生乳100%のままだが、脂肪分を調整した成分調整牛乳、乳製品を加えた加工乳、乳製品以外の成分を加えた乳飲料に分類されます。

  • 通常の牛乳(成分未調整)
    しぼったままの牛の乳(生乳)を加熱殺菌したもので、水や添加物を混ぜることは一切禁じられています。また、乳脂肪分3.0%以上、無脂乳固形分8.0%以上と定義されています。ちなみに牛乳における脂肪分は乳由来のもののみのため、乳脂肪分で定義されます。また、無脂乳固形分とは牛乳から「水分」と「乳脂肪」を除いたあとに残る固形成分のことで、タンパク質、糖、ミネラル、ビタミンなど、牛乳の栄養の中心となる成分となります。
  • 成分調整牛乳
    生乳から乳脂肪や水分などを調整した牛乳のことで、カロリーや脂質を抑えるために乳脂肪分を減らした低脂肪牛乳、無脂肪牛乳などがあります。
  • 加工乳
    生乳に脱脂粉乳やクリームなどの乳製品を加えて調整したものは、「加工乳」として分類されます。特定の栄養素を強化したり、牛乳よりも濃厚な味わいを出したり、コストを抑えて購入しやすくすることなどを目的に製造されています。
  • 乳飲料
    生乳や乳製品にビタミン、カルシウム、鉄分などの栄養素や、果汁、コーヒーなどを加えて作られたものは「乳飲料」として分類されます。栄養機能を高めたり、味にバリエーションをもたせたりすることを目的に製造されており、健康志向の人向けの商品から、嗜好性の高いフレーバー系の飲料まで幅広いラインナップがあります。
🔹加熱殺菌方法による分類

市販の牛乳は130℃で2秒間の超高温瞬間殺菌(UHT)が主流となります。日本の牛乳は加熱殺菌が必須です。ちなみに欧米諸国でも原則は加熱殺菌ですが、農場直売や認可を受けた農場等、無加熱での販売が合法となる例外があります。もちろん、無加熱での摂取は食中毒のリスクが高くなるため、購入する側もリスクを承知する必要があります。

  • 牛乳(市販の9割)
    超高温瞬間殺菌(UHT)と呼ばれる、生乳を120~150 ℃ で2~3秒間、加熱する方法で殺菌されます。風味を損なわずに栄養も保持されます。賞味期限は7~10日間程度で、要冷蔵(10℃以下)です。
  • 低温殺菌牛乳
    63~65℃で30分間の低温保持殺菌(LTLT)が施され、より生乳に近い風味が楽しめます。賞味期限は5?7日程度で、こちらも要冷蔵です。
  • ロングライフ牛乳(LL牛乳)
    超高温殺菌(UHT)後、牛乳パックに無菌充填するまでを特別な機械や管理システムで行った牛乳です。このため、未開封であれば冷蔵保存の必要はなく、常温保存が可能となります。賞味期限は3~6か月で保存性に優れます。

✅牛乳の8割は家庭で飲まれている

一般消費向けが8割で、残りの1割が業務用、1割が学校給食用となります。(2023年実績)

牛乳の用途別流通量(2023年実績)
用途 流通量(万kl) 割合
一般消費用 247 80%
業務用 27 9%
学校給食用 34 11%

牛乳乳製品統計調査 令和5年 牛乳乳製品統計(農林水産省)「8. 飲用牛乳等生産量(都道府県別・月別)」を元に当サイト作成

  • 一般消費用
    スーパー、コンビニ、ドラッグストア、生協を通して一般消費者向けに販売されます。そのまま飲んだり、料理に使用されます。
  • 業務用(学校給食用を除く)
    レストラン、カフェ、食品加工業(パン・菓子・乳製品など)に納品されます。そのままではなく、料理・製造の原料として使用されることが多いです。
  • 学校給食用
    小学校・中学校などで提供される学校給食の一環として供給される牛乳です。 子どもたちの成長と栄養バランスを支えるために、毎日飲まれることが多いのが特徴です。 基本的には成分無調整の牛乳が専用の冷蔵トラックで毎日、学校給食センターや学校へ納品されます。
📝学校給食センターとは

市区町村や教育委員会が設置・運営する共同調理場で、複数の学校(小学校・中学校など)向けに一括で給食を調理・配送する施設。学校給食センターでの一括調理以外に各学校で調理する自校方式があります。学校給食法において、子どもたちの栄養改善・体力向上・食育の推進を目的としており、これを達成するために文部科学省が定める「学校給食実施基準」(通知)では、牛乳またはこれに準ずる乳製品を毎日提供することが望ましいとされています。この文言に基づき、実際の給食では牛乳が事実上の標準となっていますが、昨今ではアレルギーの問題で代替品を使用することもあり、柔軟な対応が求められます。

3. 牛乳の輸出入

✅【輸出】日本の牛乳は今、アジアで売れている

日本産牛乳の海外展開は、1996年にホクレン農業協同組合連合会が北海道産のロングライフ牛乳を香港へ輸出したことから始まりました。 このロングライフ牛乳は、超高温瞬間殺菌(UHT)により常温保存が可能で、長距離輸送や海外での販売に適しています。

香港市場では、日本産の高品質な製品として受け入れられ、徐々に輸出量は拡大しました。 さらに2008年、中国で発生したメラミン混入事件をきっかけに、中国産乳製品への信頼が低下し、日本産牛乳への需要が高まりました。

現在では、香港を中心に、シンガポールや台湾などアジア諸国にも輸出されており、年間7,000トン前後の輸出量となっています。

貿易統計(財務省)を元に当サイト作成

✅【輸入】牛乳の輸入はほぼゼロ、加工乳製品に限定

日本では牛乳の輸入実績はほとんどありません。これは以下の理由によるものです:

  • 鮮度の問題:日持ちが短く、海外からの長距離輸送に不向き。
  • 衛生基準の違い:各国で基準が異なり、日本の基準を満たす製品が限られる。
  • 関税・規制:食品衛生法や関税による制度的な障壁がある。
  • 国内酪農の保護:国内の酪農業を守るため、輸入牛乳の市場流通を制限している。

そのため、実際に輸入されているのは、脱脂粉乳やチーズ・バターなどの加工乳製品に限られています。

最終更新日:2025年5月20日