データで読み解く 日本の食料事情

鶏肉の生産と輸出入の現状を探る

鶏肉は、手頃な価格で購入できることから、肉類の中でも最も消費量が多い食材として定着しています。この安価な鶏肉は、短期間で出荷できるよう品種改良された肉用若鶏であり、一般に「ブロイラー」と総称されています。現在流通している鶏肉の主流は、このブロイラーです。一般的に鶏肉というと、ブロイラーを指します。一方で、在来種の鶏は高級品として位置づけられ、一部は輸出もされています。

1. 鶏肉の戦後史

1950年~戦後しばらくは在来種が主流

在来種は明治時代までに国内で成立、または導入されて定着した鶏の品種です。この頃の鶏はあくまでも卵を産ませることが目的であり。卵を産めなくなった鶏を食す程度でした。

1960年~食用専用の鶏(ブロイラー)の技術導入と生産効率向上

飼育期間の短縮や効率的な生産が可能なブロイラーの飼育技術が国内に導入されたことによって、大量生産が可能となり、手頃な価格で入手可能となりました。

1990年~輸入鶏肉の増加

国内需要の増加に伴い国内生産品だけでは需要を賄うことができず輸入品も増加しました。主にブラジル産の冷凍カット品が海上コンテナで東京港や大阪港経由で輸入されています。

2000年~地鶏の高級食材化

日本農林規格(JAS規格)において、在来種の血液百分率が50パーセント以上で、出生の証明ができ、「75日以上の飼育期間」「28日齢以降平飼い」「28日齢以降1平方メートル当たり10羽以下の飼育密度」の飼育条件をクリアしたものが地鶏と定義されました。

2.鶏肉の生産・流通

✅国内生産量、輸入量ともに緩やかに増加傾向

ブロイラー技術の導入に伴い1990年までは国内生産量は年々増加、その後はより安価な輸入鶏肉の普及により、 国内生産量は調整局面を迎えるも2000年からは再び上昇に転じました。

食料需給表より当サイト作成

✅国内生産量は鹿児島、宮崎、岩手の3県に大きく依存

現在、日本国内で流通している鶏肉の生産は、特定の地域に大きく依存しています。 中でも鹿児島県、宮崎県、岩手県の3県は、いずれも主要な生産拠点となっており、 この3県だけで国内生産量の半分以上を占めています。
特に温暖な気候や広大な土地を活かした南九州(鹿児島・宮崎)の生産規模は大きく、効率的な飼育体制が確立されています。 また、岩手県も広大な平野部を活かして大規模な飼育が行われており、寒冷地でも飼育が可能な技術が進んだことで、南九州に次ぐ重要な産地となっています。
このように、国内産鶏肉は生産拠点が偏在しているため、天候不順や感染症リスクなどが発生した場合、生産全体に影響が及ぶリスクも抱えているのが実情です。

鶏肉出荷羽数 都道府県別割合(令和6年2月現在)

畜産統計(令和6年2月1日現在)(農林水産省)より当サイト作成「ブロイラー(令和6年2月1日現在)(2)出荷戸数・羽数(全国農業地域・都道府県別)(全国農業地域別・都道府県別)」便宜的に年間処理羽数30万羽を超える食鳥処理場を全ての食鳥処理場とみなしています。

✅ブロイラーの実態

ブロイラーについて理解するために、ブロイラーとの比較として、用いられる在来種、地鶏、銘柄鶏との違いやブロイラーの生産工程について、少し深堀りします。

在来種と地鶏、ブロイラーと銘柄鶏について
  • 在来種
    在来種とは、明治時代までに日本国内で成立した鶏の品種を指します。 薩摩鶏、名古屋種、比内鶏などが代表例で、地域ごとに特徴的な体型や羽色、性格を持っています。 現在は文化財として保存されるケースが多く、食肉として市場に出回ることはほとんどありません。
  • 地鶏
    地鶏とは、在来種の血統を50%以上引き継ぎ、さらに国の定めるJAS規格を満たした鶏を指します。 具体的には、80日以上の飼育期間、平飼いによる飼育方法が求められます。 名古屋コーチン、比内地鶏、薩摩地鶏などが代表的で、肉質が締まり、旨味が濃厚なのが特徴です。 一般の鶏肉より高価格帯に位置づけられています。
  • ブロイラー
    ブロイラーとは、短期間で効率よく肉を生産できるように改良された肉用若鶏を指します。 一般的な飼育期間は約50日と短く、飼育コストを抑えながら大量生産が可能です。 ブロイラーは海外企業が開発・管理している商用ハイブリッド種で、日本の農家は海外企業から雛(種鶏雛)を仕入れて育てます。
  • 銘柄鶏
    銘柄鶏とは、各生産者や団体が独自にブランド化した鶏肉を指します。 地鶏のような国の規格はありませんが、飼料や飼育方法にこだわり、差別化を図っています。 血統の制限はなく、ブロイラーをベースにしたものが多いです。 桜姫鶏、奥州いわいどり、森林どりなどが代表例で、スーパーでも広く流通しており、手頃な価格で購入できます。

ブロイラーは海外企業が開発・管理している商用ハイブリッド種であり、日本の農家は雛を仕入れて育てている点が重要です。さらに重要な点として、輸入した雛から生まれたブロイラーの形質は1代限りのため、日本の農家は毎回海外から雛を仕入れつ必要があります。この雛のことを業界用語では種鶏雛と呼びます。一見すると国産鶏肉の生産量は輸入鶏肉よりも多く、鶏肉の自給率は高いように思えますが、ブロイラーを生産するための種鶏雛は毎回、海外から輸入しているという意味で本当の自給率はゼロに近いです。

ブロイラーの生産工程

ブロイラー(肉用鶏)の生産工程は以下の通りです。種鶏雛の購入から、食鳥処理まで、鶏肉が生産されるまではいくつもの工程がありますが、各工程はそれぞれ専門施設で行われます。種鶏雛の育成から食鳥処理まで、おおよそ1年から1年半程度を要します。

  1. 原種鶏場(海外)
    原種鶏を育成し、卵を産ませ、種鶏雛を孵化して、日本を含む全世界の種鶏場に供給
    種鶏雛はほぼ輸入品です。具体的には種鶏業者が海外の提携先から輸入した種鶏雛を日本の商社から購入しています。
  2. 種鶏場(育雛期間:約6か月~7か月)
    種鶏雛を育成し、卵を産ませ、ブロイラー雛を孵化して全国の養鶏場に供給します。
  3. 養鶏場(肥育期間:約45~60日)
    ブロイラー雛を育て、若鶏として食鳥処理場へ出荷します。
  4. 食鳥処理場(一次加工)
    養鶏場から運ばれてきた若鶏を検査後、屠殺し解体処理後に部位毎に包装されて卸業者や加工業者に送られます。
  5. 卸業者・加工業者(二次加工)
    卸業者や加工業者に送られた鶏肉は、さらに加工(スライス、味付け、調理済み商品化)されます。

鶏肉として出荷されるブロイラーは、実は非常に複雑な仕組みの中で育てられています。 まず、いちばん元になるのが「原々種鶏(げんげんしゅけい)」と呼ばれる特別な鶏です。これは、体が大きく育ちやすい、病気に強い、成長が早いといったそれぞれ異なる特長を持った鶏たちです。これらを適切に組み合わせて交配することで、「原種鶏(げんしゅけい)」が生まれます。この原種鶏同士を交配して作られるのが「種鶏(しゅけい)」です。そして、種鶏が産んだヒナが、最終的に私たちが食べている「ブロイラー」になります。
つまり、原々種鶏 → 原種鶏 → 種鶏 → ブロイラーというピラミッド型の育種の流れがあるわけです。
こうした複数の異なる系統をかけ合わせて生まれた鶏は、「F1種(雑種一代)」と呼ばれ、親の世代よりも優れた性質を発揮します。これを「ハイブリッド効果(雑種強勢)」と呼びます。ただしこの効果は一代限りであり、ブロイラーを安定して生産するには、常に元となる種鶏・原種鶏を継続的に確保しておく必要があります。ところが、日本ではこのピラミッドの上層――とくに原種鶏や原々種鶏の保有や育種が行われておらず、原種鶏はすべて海外の育種会社から輸入しています。 現在、日本で流通しているブロイラーの約90%は「チャンキー種」と呼ばれる系統で、これは株式会社日本チャンキーが海外から輸入しています。以前は主にイギリスから原種鶏を調達していましたが、2022年に同国で鳥インフルエンザが流行したことから、2023年以降はニュージーランドからの輸入が中心になっています(※同社ホームページより)。

鳥インフルエンザとブロイラー供給への影響

高病原性鳥インフルエンザの発生は、ブロイラーの生産と供給体制にも大きな影響を与えます。発症が確認された鶏舎では、すべての鶏が殺処分されるため、出荷予定だった肉用鶏の供給が突如失われ、市場への出荷量が大幅に減少します。2022年度には過去最大規模の殺処分が発生し、ブロイラーの需給にも混乱が生じました。

  • 供給減少:出荷直前の肉用鶏が大量に処分されることで、スーパーや飲食店向けの流通量が一時的に減少します。
  • 価格上昇:国産鶏肉の供給不足により、もも肉・むね肉などの価格が上昇。外食産業や惣菜業界への影響も拡大しました。
  • 回復までの時間:ブロイラーは育成期間が約50日と短いため、採卵鶏よりは回復が早いですが、親鶏や種鶏の段階に影響が及ぶと、中長期的な影響となります。
  • 輸入増加:国産鶏肉の不足を補うため、ブラジルなどからの冷凍鶏肉輸入が一時的に増加する傾向があります。

鳥インフルエンザは、国産鶏肉の安定供給にとって重大なリスクであり、生産体制全体の強靭化が求められています。

3. 鶏肉の輸出入

✅【輸出】香港を中心に拡大する日本産鶏肉と調製品の輸出市場

日本産鶏肉は、特に香港を中心としたアジア地域で安定した需要があり、冷凍もも肉やむね肉などの分割品が主に輸出されています。とりわけ香港では、日本産食品に対する「安全・高品質」というブランドイメージが定着しており、外食産業や日系スーパーなどを通じて継続的な需要があります。これらは主にチルドまたは冷凍形態で輸出されており、日本国内の大規模処理施設や港湾インフラを活用して供給されています。
一方、近年急速に輸出金額を伸ばしているのが鶏肉調製品です。特に2020年以降、輸出金額が飛躍的に増加しており、これは新型コロナウイルス感染症の拡大による生活スタイルの変化と密接に関係しています。各国で外食が制限され、家庭で食事を用意する機会が増えたことにより、加熱済みで手軽に調理できる日本製の唐揚げや焼き鳥といった冷凍調製品の人気が高まりました。
特に香港では、電子レンジやフライパンで温めるだけで本格的な日本の味が楽しめることから、惣菜用途の中でも高単価な日本製品へのニーズが急増しました。これに伴い、日本国内の食品メーカーが品質の高い調製品を輸出用に開発し、利便性と味の両面で海外の消費者に支持されるようになっています。日本産鶏肉とその調製品の輸出構造は、こうした国際的なライフスタイル変化にも柔軟に対応しており、今後も拡大が期待される分野です。

貿易統計(財務省)を元に当サイト作成(金額は1996年以降を掲載)
鳥インフルエンザの流行年は輸出量が大きく下がり、流行が落ち着くと徐々に回復する傾向があります。

国産鶏肉の輸出実績(2024年)
国名 輸出量(トン) 輸出金額(億円) 輸出金額の割合(%)
香港 3,278 10.9 83.8%
ベトナム 1,006 1.5 11.5%
その他 337 0.6 4.6%
合計 4,621 13.0 100.0%

貿易統計(財務省)を元に当サイト作成(HSコード:0207.14-010 & -090、冷凍鶏肉(分割有り))

国産鶏肉調製品の輸出実績(2024年)
国名 輸出量(トン) 輸出金額(億円) 輸出金額の割合(%)
香港 761 11.4 97.4%
その他 36 0.4 2.6%
合計 797 11.8 100.0%

貿易統計(財務省)を元に当サイト作成(HSコード:1602.32-000 、鶏肉調製品)

✅【輸入】国産だけでは足りない―輸入鶏肉が支える日本の食卓

日本の鶏肉自給率は約64%と比較的に高く見えますが、実際には輸入に大きく依存しています。冷凍の未調製鶏肉は主にブラジルから、唐揚げなどの調製品はタイや中国から輸入され、国内需要の3~4割を支えています。
これらはコストと品質の両面で有利ですが、鳥インフルエンザの発生や輸出規制、円安、物流混乱などグローバルリスクに左右されやすい構造でもあります。
また、国内生産分も飼料や種鶏を輸入に頼っており、表面的な自給率よりも実質的な自立性は低いのが現状です。今後は国際情勢の変化に備えた、より強靱な供給体制の構築が求められます。

貿易統計(財務省)を元に当サイト作成(金額は1996年以降を掲載)

鶏肉の輸入実績(2024年)
国名 輸入量(万トン) 輸入金額(億円) 輸入金額の割合(%)
ブラジル 45 1396 64.2%
タイ 18 751 34.5%
その他 1 29 0.3%
合計 64 2176 100.0%

貿易統計(財務省)を元に当サイト作成(概況品コード:00307鶏肉)

鶏肉調製品の輸入実績(2024年)
国名 輸入量(万トン) 輸入金額(億円) 輸入金額の割合(%)
タイ 31 2206 64.0%
中国 19 1182 34.3%
その他 1 60 1.7%
合計 51 3448 100.0%

貿易統計(財務省)を元に当サイト作成(HSコード:1602.32)

関連リンク

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採卵用の鶏は別の系統で育種・飼育されており、価格形成や需給調整の仕組みも異なります。
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最終更新日:2025年6月25日