鶏卵は、手頃な価格で栄養価が高いことから、日常的に消費される食品として広く定着しています。現在流通している卵の多くは、短期間で安定的に産卵できるよう品種改良された「卵用鶏(レイヤー)」によって生産されています。一般に「鶏卵」といえば、このレイヤー種の鶏が産んだ卵を指します。一方で、在来種や特定の飼育方法(平飼い、放し飼いなど)で生産された卵は、高付加価値商品として扱われており、一部は海外への輸出も行われています。
鶏卵は現在こそ、日常的に広く消費される身近な食品ですが、その定着には戦後の高度経済成長期における技術革新が大きく寄与しています。短期間で安定的に産卵できる採卵専用種(レイヤー)の導入と、鶏の餌となる配合飼料の海外からの安定供給が、その背景にありました。
在来種の鶏は、明治時代までに国内で成立または導入され、定着した品種です。当時は卵の採取を主目的としつつも、採卵効率は高くなく、家庭での自家用飼育が一般的でした。
短期間で安定的に産卵する採卵専用種(レイヤー)が導入され、飼育施設の近代化や配合飼料の普及と相まって、鶏卵の大量生産と価格の安定が急速に進展しました。
国産卵の供給体制は安定していたものの、加工用途を中心に中国などからの輸入鶏卵(液卵・乾燥卵など)が増加。価格競争の影響が徐々に国内市場にも及び始めました。
食の安全性や動物福祉への関心が高まる中、平飼いや放し飼いなどの飼育方法にこだわった高付加価値の「ブランド卵」が登場。地元産卵や機能性卵も含め、多様な選択肢が広がりました。
採卵専用種(レイヤー)の導入と飼養技術の発展に伴い、鶏卵の国内生産量は1960年代以降大きく伸び、1990年頃までは年々増加を続けました。これにより、卵は日常的に手頃な価格で手に入る食品として定着しました。その後は生産体制の成熟と消費の安定化により、国内生産量はおおむね横ばいで推移しています。
食料需給表より当サイト作成
なお、輸入量においては、殻付き卵以外に液卵及び粉卵を含み、それらも殻付き卵に換算して計上しています。 現在の換算係数は卵黄粉2.2倍、卵黄液1倍、全卵粉4.4倍、全卵液1.1倍、卵白粉8.6倍、卵白液1.2倍となります。殻付き卵そのものの輸入量はさらに少なくなります。
鶏卵の生産は、他の畜産品と比べて地域的な偏在が比較的少ないのが特徴です。北海道から九州まで全国各地で安定して生産されており、特定の産地に依存することなく広く分散しています。これは、採卵鶏の飼養に必要な施設や飼料供給体制が全国に整っていることに加え、輸送コストが比較的低く、地域の需要に応じた地産地消型の供給体制が築かれていることによります。
鶏卵生産量 都道府県別割合(令和6年2月現在)
令和6年鶏卵流通統計調査結果(農林水産省)を元に当サイト作成
レイヤー(採卵用鶏)もブロイラー同様に海外の企業が開発・管理している商用ハイブリッド種であり、日本の養鶏業者は雛(ひな)を輸入または専門業者から仕入れて飼育しています。これらのレイヤー種も遺伝的な特徴が1代限りで発現するよう設計されているため、農家が生まれた卵から自家繁殖で次世代を育てることは基本的にできません。そのため、日本の採卵用養鶏は原種鶏や親鶏の段階から海外資源に依存しており、雛の段階で「種鶏雛」と呼ばれるものを毎回仕入れる必要があります。統計上は国産鶏卵の生産量が圧倒的であり、自給率が高いように見えますが、その根幹となる育種資源を海外に依存しているという意味では、採卵分野においても“真の自給率”は極めて低いのが現実です。
レイヤー(採卵鶏)の生産工程は以下の通りです。原種鶏の育成から卵の生産・出荷まで、いくつもの工程が存在し、それぞれが専門施設で分業されています。原種鶏の育成から市販卵の出荷に至るまで、約1年半から2年程度を要します。
私たちが日常的に食べている鶏卵は、実は非常に複雑な育種体系の中で生み出されています。
最も上流に位置するのが「原々種鶏(げんげんしゅけい)」と呼ばれる特別な鶏で、それぞれ高い産卵能力、丈夫な体、温厚な性格など異なる特性を持つ複数の系統が存在します。これらを意図的に交配して生まれるのが「原種鶏(げんしゅけい)」です。原種鶏同士の交配によって「種鶏(しゅけい)」がつくられ、種鶏が産んだヒナが、最終的に鶏卵を生産する「レイヤー(採卵鶏)」となります。
このように、原々種鶏 → 原種鶏 → 種鶏 → レイヤーというピラミッド型の育種構造が採卵業にも存在します。
こうした複数系統の組み合わせから生まれた鶏は「F1種(雑種一代)」と呼ばれ、親の世代よりも優れた性質を示します。この現象は「ハイブリッド効果(雑種強勢)」として知られており、高い産卵率や病気への強さといった商業的に重要な性質が強化されます。ただしこの効果は一代限りのものであるため、安定的に採卵鶏を供給するためには、常に元となる種鶏・原種鶏を維持していく必要があります。
ところが、日本ではこのピラミッドの上層―とくに原種鶏や原々種鶏の育種を自国内で行っておらず、主要な採卵系統は海外から導入されています。
現在、日本の採卵鶏の大半を占めるのは「ジュリア」や「ボリスブラウン」などと呼ばれる系統で、これらは海外の育種企業が管理しており、日本では民間種鶏会社が輸入・育成して供給しています。
採卵用に飼育される鶏は、雌のみが卵を産むため、孵化したオスの雛は採卵には使われません。現在の商業養鶏では、これらのオス雛は生後すぐに殺処分されるのが一般的で、日本国内でも年間数千万羽が対象になっています。これは効率を最優先した生産システムの一環ですが、消費者にはほとんど知られていない現実です。欧州ではこうした慣行の見直しが進み、雌雄鑑別技術の導入やオス雛の活用が模索されています。日本でも一部の研究機関や企業、動物福祉団体を中心に、オス雛の処分問題に対する技術的・倫理的な関心が高まりつつあります。
高病原性鳥インフルエンザの発生は、鶏卵の生産・流通に深刻な影響を与えます。発症が確認された養鶏場ではすべての鶏が殺処分されるため、一度の発生で数十万羽が失われ、卵の供給量が大幅に減少します。2022年度には過去最多となる約1,700万羽の鶏が殺処分され、全国の飼養羽数の1割以上に相当する規模となりました。この影響で2023年度については、輸出量は減少、輸入量が増えました。
日本品質の食品はアジア、とりわけ香港において人気です。鶏卵のその一つであり。近年、輸出量が増えている食品の一つです。
日本産鶏卵の輸出は全体としてまだ限定的ではあるものの、近年は香港への輸出量が緩やかに増加しています。香港では日本産卵の「生で食べられるほどの衛生管理」や「品質の高さ」が評価されており、安全性や信頼性を重視する消費者層を中心に需要が広がっています。今後は他のアジア圏への展開も見据えつつ、ブランド力を活かした高付加価値輸出が期待されています。
貿易統計(財務省)を元に当サイト作成
貿易統計(財務省)を元に当サイト作成(HSコード:0407.21-000 殻付き鶏卵)
鶏卵を生のまま食べる習慣は、世界的に見ると極めて珍しく、ほぼ日本に特有の文化です。 これは、日本国内において徹底した衛生管理体制が確立されており、流通段階でも「生食」を前提とした温度管理や鮮度保持が徹底されていることによります。一方、海外ではサルモネラ菌のリスクを考慮して加熱調理が基本とされており、生食は避けるのが一般的です。
鶏卵加工品には、一定の業務用需要があります。たとえば製菓や製麺など、卵を原料として短時間で大量に調理する必要がある現場では、液卵や乾燥卵といった加工品の利便性が重宝されます。 こうした背景から、鶏卵加工品の多くは食品製造業や飲食業などの業務用途において使用されるのが一般的です。
貿易統計(財務省)を元に当サイト作成(HSコード:殻付き卵 0407.21-000,液卵黄 0408.19-000 ,乾燥卵黄 0408.11-000,乾燥全卵または乾燥卵白 0408.91-000,液全卵または液卵白 0408.99-010) 実重量ベース
液卵は輸入量ベースで見ると主流の形態に見えますが、殻付き卵に換算して比較すると、乾燥卵(粉末卵)の存在感が一気に際立ちます。実際の使用可能量という視点では、乾燥卵が圧倒的な割合を占めており、液卵とは異なる様相を呈しています。下図ではこの換算結果をグラフで示すとともに、各形態ごとの主な輸入先国も整理しています。
貿易統計(財務省)を元に当サイト作成(HSコード:殻付き卵 0407.21-000,液卵黄 0408.19-000 ,乾燥卵黄 0408.11-000,乾燥全卵または乾燥卵白 0408.91-000,液全卵または液卵白 0408.99-010) 殻付き換算ベース
| 卵の形態 | 換算倍率 | 使用用途 | 主な輸入先(2024年実績、換算倍率適用後、単位:トン) |
|---|---|---|---|
| 乾燥全卵または乾燥卵白 | ×4.4(全卵粉)と8.6(卵白粉)の混在のため、便宜的に平均の×6.5を使用 | 製菓、製パン、業務用加工食品 | インド3210、アルゼンチン2966、イタリア2477、アメリカ1614 |
| 液卵黄 | ×1.0 | 製菓、マヨネーズ、カスタード | アメリカ4966 |
| 乾燥卵黄 | ×2.2 | 粉末スープ、インスタント食品、練り製品 | アメリカ3095 |
| 液全卵または液卵白 | ×1.1(全卵液)と1.2(卵白液)の混在のため、便宜的に平均の×1.15を使用 | オムレツ、たまご焼き、菓子製造 | タイ1425 |
卵と同じく鶏を原料とする食品でありながら、生産体系や市場構造が大きく異なるのが「鶏肉」です。
採卵鶏と肉用鶏(ブロイラー)は品種・育成期間・流通経路がまったく異なり、それぞれ別の構造的課題を抱えています。
→ 鶏肉の構造を見る
最終更新日:2025年6月25日