豚肉は、価格とボリュームのバランスがよく、日々の食卓に欠かせない身近な食材のひとつです。現在、スーパーなどで広く流通している豚肉の多くは、成長の早さや肉質のバランスを考慮して品種改良されたものです。これらは、ランドレースやヨークシャー、デュロックといった複数の品種を掛け合わせることで生産されており、効率的な出荷や安定した品質を実現しています。
私たちが普段食べている豚肉。その多くが、実は複数の品種を掛け合わせて育てられた“ハイブリッド豚”だということは、あまり知られていません。 でも、こうした仕組みが当たり前になったのは、ここ数十年のこと。 昔の日本では、小さな農家が在来種の豚を飼っていたり、残飯をエサにしていたりと、今とはまったく違う風景がありました。 豚肉が身近な食材になるまでの、変化の流れを、時代ごとに見ていきましょう。
戦後しばらくの日本では、在来種や雑種の豚を農家が副業的に飼育する形が一般的でした。都市近郊では生ゴミを餌にした「残飯養豚」も多く見られ、飼育頭数も少ない小規模経営が中心でした。
経済成長とともに豚肉の需要が急増し、欧米から導入されたランドレースやヨークシャーなどの品種が普及。政府や農協の指導のもとで近代的な飼育技術が導入され、専業養豚農家が増加していきました。
肉質と成長効率を両立させるため、ランドレース・大ヨークシャー・デュロックを掛け合わせた「三元豚」が主流に。豚肉のF1化が進み、効率的な出荷と安定した品質の実現が図られました。
外食産業の発展や業務用需要の増加により、冷凍の輸入豚肉が急増。主にアメリカやカナダなどからの部分肉が安価に輸入され、家庭用よりも加工・業務用途での比率が高まりました。
消費者の安全志向や地域活性化の流れから、「かごしま黒豚」や「群馬麦豚」など、飼育方法や飼料に特徴をもたせた地域ブランド豚が注目されるようになりました。差別化が進む一方で、種豚や飼料の海外依存は続いています。
日本の豚肉の国内生産量は1990年頃をピークに緩やかに減少し、近年は年間120~130万トン程度で横ばいが続いています。 一方、消費量はおおむね維持されており、国内生産の停滞を補う形で輸入量が増加しました。現在では、国内で消費される豚肉の過半数を輸入品が占めています。特に冷凍品を中心に、アメリカ、カナダ、メキシコなどからの輸入が増え続けています。
食料需給表より当サイト作成
鹿児島県、北海道、宮崎県が多いものの、特定の地域に大きく依存することはなく、各地域で生産されています。
肥育豚頭数 都道府県別割合(令和6年2月現在)
畜産統計調査(令和6年2月1日現在)(農林水産省)より当サイト作成「豚(令和6年2月1日現在)(1)飼養戸数・頭数(全国農業地域別・都道府県別)」
在来豚、ブランド豚、そして主流である三元豚との違いや、生産の流れについてまとめました。
三元豚は商業的に設計されたハイブリッド種であり、親となるF1母豚(LW)や雄豚(D系)の多くは、海外から導入された原種豚をもとに日本国内で生産されています。ただし、こうした交配は一代限りの「雑種強勢(ハイブリッド効果)」によるものであり、F1同士を掛け合わせても同じ品質は得られません。そのため、日本の養豚農家では、毎回、原種豚や種豚を専門の種豚場から調達して三元交配を行う必要があります。この三元豚が鶏肉で言うところのブロイラー、卵で言うところのレイヤーに相当します。
三元豚の生産工程は以下の通りです。原種豚の輸入から、肥育、出荷まで、多くの工程が分業化されており、それぞれの工程に専門業者が関与しています。
豚肉の生産も鶏肉同様、ピラミッド型の育種体系のもとで成り立っています。最上位に位置する原種豚は海外企業が管理しており、日本国内ではその遺伝資源をベースに種豚や交雑豚が生産されています。 つまり、「国産豚肉」と表示されていても、その“源流”となる遺伝資源や飼料の多くは輸入に依存しており、真の意味での自給とは言えないのが現実です。
日本産豚肉と調製品は国内生産量の1%に満たないながらも、香港を中心に輸出されており、2010年代から 2020年代にかけて、100トン単位から1000トン単位へ、輸出量は10倍程度に伸びました。
貿易統計(財務省)を元に当サイト作成(HSコード:豚肉0203、豚肉調製品1602.41~1602.49)
割合としてはほぼ冷凍品です。主な輸出先である香港とシンガポールにおける日本産の輸入割合はまだまだ小さいため伸びしろはあります。他の食材同様に現地の日本料理店等、業務用としての輸入が多いと考えられます。
| 国名 | 輸出量(トン) | 輸出金額(億円) | 輸出金額の割合(%) |
|---|---|---|---|
| 香港 | 887 | 11.9 | 68% |
| シンガポール | 351 | 4.7 | 27% |
| その他 | 63 | 1.0 | 5% |
| 合計 | 4,621 | 13.0 | 100% |
貿易統計(財務省)を元に当サイト作成(HSコード:0203 豚肉 )
| 国名 | 輸出量(トン) | 輸出金額(億円) | 輸出金額の割合(%) |
|---|---|---|---|
| 香港 | 194 | 3.6 | 92% |
| その他 | 18 | 0.3 | 8% |
| 合計 | 797 | 11.8 | 100% |
貿易統計(財務省)を元に当サイト作成(HSコード:1602.49-000 、豚肉調製品)
日本の豚肉輸入量は、1991年の自由化以降に急増し、それ以降は国内消費の約半分を恒常的に輸入で補う構造になっています。つまり、「国産豚肉が主流」というイメージとは裏腹に、実際には輸入豚肉が日本の食卓を支えている側面が大きいのが現実です。
貿易統計(財務省)を元に当サイト作成
日本が輸入している豚肉の主な仕入れ先は、アメリカ、カナダ、スペインの3か国です。これらの国は安定した供給力と品質管理体制を持ち、日本の食品市場でも重要な存在となっています。
しかし、それだけに限らず、メキシコやデンマーク、チリ、オランダなど、さまざまな国からも豚肉を輸入しており、国際的に多様な供給源を持つのが特徴です。
輸入品の多くは、加熱などの加工をしていない「冷凍の未加工品」が中心で、業務用の食材や量販店向けの精肉として使われています。一方で、すでに味付けや調理が施された「調製品(ちょうせいひん)」の輸入も一定の割合を占めており、こちらはレトルト食品、冷凍惣菜、ハム・ソーセージなどの加工食品として流通しています。
| 国名 | 輸入量(万トン) | 輸入金額(億円) | 輸入金額の割合(%) |
|---|---|---|---|
| カナダ | 25 | 1601 | 25% |
| アメリカ | 23 | 1486 | 23% |
| スペイン | 17 | 1109 | 17% |
| メキシコ | 11 | 795 | 12% |
| ブラジル | 8 | 449 | 7% |
| デンマーク | 6 | 410 | 6% |
| その他 | 9 | 605 | 9% |
| 合計 | 99 | 6455 | 100% |
貿易統計(財務省)を元に当サイト作成(概況品コード:0030501豚肉)
| 国名 | 輸入量(万トン) | 輸入金額(億円) | 輸入金額の割合(%) |
|---|---|---|---|
| アメリカ | 9 | 569 | 59% |
| デンマーク | 1 | 80 | 8% |
| カナダ | 1 | 79 | 8% |
| 中国 | 1 | 59 | 6% |
| チリ | 1 | 58 | 6% |
| メキシコ | 1 | 58 | 6% |
| その他 | 1 | 63 | 7% |
| 合計 | 15 | 966 | 100% |
貿易統計(財務省)を元に当サイト作成(HSコード:1602.42-1602.49)
鶏肉も豚肉と同様に、F1種(交雑種)によって安定的な生産が続いているという点では共通しています。ただし、輸入先が豚肉に比べて限られた少数の国に偏っているという違いがあります。
→ 鶏肉の構造を見る
最終更新日:2025年6月25日