牛肉は、豊かな風味と旨みから、高級志向の食材として多くの場面で選ばれています。すき焼きやステーキなど、特別な日の料理にも欠かせない存在であり、日本国内では和牛をはじめとする国産牛に根強い人気があります。長期肥育によって仕上げられるこれらの牛肉は、見た目の美しさややわらかさに優れ、高い付加価値を持つのが特徴です。近年では、国内消費にとどまらず、アジアを中心とした輸出市場でも注目されており、日本の畜産業における重要な柱となっています。
今では高級食材として親しまれている牛肉ですが、もともとは農作業を担う労働力として飼われていた時代もありました。日本人の暮らしや食文化の変化とともに、牛肉の立ち位置も大きく変わってきました。ここでは、戦後から現在までの牛肉生産の流れを、時代ごとに振り返ってみましょう。
戦後直後の日本では、牛は農耕や運搬に使われる労働力としての役割が中心でした。牛肉の消費は限られており、飼育頭数も多くありませんでした。しかし、農業の機械化が進むにつれ、牛は次第に食肉用として飼育されるようになり始めます。
経済成長とともに国民の食生活が豊かになり、牛肉の需要が増加します。これに対応するため、政府は「肉用牛生産近代化計画」などの施策を通じて、乳用種の雄子牛を活用した肥育や、和牛の改良・導入を進め、生産基盤を強化していきます。
牛肉消費が急速に伸び、すき焼きや焼肉が一般家庭にも広まります。肥育農家の規模拡大が進み、和牛の飼育が日本各地で本格化。また、ホルスタイン去勢牛を利用した肉牛生産も増加し、多様な供給体制が整い始めます。
1991年、牛肉の輸入が自由化され、オーストラリアやアメリカから安価な輸入牛肉が急増します。これにより国内の肥育農家は価格競争に直面し、生産コストの高さが課題となります。一方で、差別化戦略として「和牛ブランド」の価値が高まっていきます。
2001年に国内でBSE(牛海綿状脳症)が発生し、牛肉市場は一時混乱します。その後は安全管理体制が強化され、トレーサビリティ制度の導入や月齢制限などが進みました。さらに、アジアを中心に和牛の輸出が注目され、国内需要の減少を補う動きが始まります。
牛のトレーサビリティ(追跡可能性)を確保するために、国内で飼育される全ての牛に生涯にわたって付与される、重複することのない10桁の番号です。この制度は、2003年の「牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法」(通称:牛肉トレーサビリティ法)によって義務化されました。この制度は2001年の国内におけるBSEの発生を受けて制定されたもので、消費者はラベルに記載された番号を「牛の個体識別情報検索サービス」で入力すると、その牛の出生地、飼育履歴、と畜場などが確認できます。
戦後の日本では、牛肉は限られた家庭でしか消費されていませんでしたが、1960年代以降の経済成長に伴い需要が拡大しました。1970年代には肥育技術の向上で生産量が増加し、1991年の輸入自由化を境に安価な外国産牛肉の流通が本格化します。その後、国内生産は伸び悩む一方で輸入量は急増し、現在では国内流通量の半分以上を輸入に頼る構造となっています。
食料需給表より当サイト作成
鹿児島県、宮崎県、北海道が多いものの、特定の地域に大きく依存することはなく、各地域で生産されています。
肥育牛頭数 都道府県別割合(令和7年2月現在)
畜産統計調査(令和7年2月1日現在)(農林水産省)より当サイト作成「牛(令和7年2月1日現在)(1)飼養戸数・頭数(全国農業地域別・都道府県別)」
牛は用途別の観点からは牛乳用と食肉用の用途別に分類され、それぞれを乳用牛、肉用牛と言います。肉用牛は肉専用種、乳用種、交雑種の3種類に分かれます。私達は普段、これらの種類をまとめて牛肉とよんでいますが、それぞれの種類の概要は次の通りです。
和牛は在来種を元に改良された黒毛和種(くろげわしゅ)褐毛和種(あかげわしゅ)、日本短角種(にほんたんかくしゅ)、無角和種(むかくわしゅ)の4種類及びそれらの交雑種かつ、国内で出生し,国内で飼養された牛であることと定義されています。現在、市場に流通している和牛のほとんどは黒毛和種です。食肉を販売する際に,これら以外の牛肉に「和牛」の肉であると表示することは,「食肉の表示に関する公正競争規約」において禁止されています。なお、在来種とは、日本に古くから飼われていた固有種を指し、明治以前から各地に存在していましたが、その大半は外国種との交配が行われており、現在、残存する純粋な在来種は見島牛(みしまうし)、口之島牛(くちのしまうし)、竹の谷蔓牛(たけのたにつるうし)の3種類のみと言われています。
一方、海外でも和牛の遺伝子を持つ品種が生産されており、Wagyuと呼ばれています。これらは国内で出生し,国内で飼養された牛ではないため、和牛として販売することはできません。
また、和牛は国産牛に含まれますが、外国産の牛を日本国内で一定期間、飼養した場合も国産牛となります。
牛肉の生産工程は、品種によって異なりますが、いずれも繁殖・肥育・流通までに長期間を要するのが特徴です。
国内生産量が伸び悩むこととは相反するものの、和牛については輸出量が急激に主な輸出先は、アジアと北米に集中しています。とりわけ香港、台湾、シンガポールなどのアジア市場では「安全・高品質な和牛」というブランドイメージが定着しており、外食産業や高級スーパーを通じた需要が堅調です。近年はアメリカ向けも拡大し、焼肉や高級ステーキ用途で評価が高まっています。輸出全体は2010年代以降、規制緩和やプロモーション強化により急伸しており、国内畜産業にとって重要な成長分野となっています。また、調製品については割合は少ないものの香港、フィリピン向けの輸出が行われています。
貿易統計(財務省)を元に当サイト作成(HSコード:牛肉0201~0202、牛肉調製品1602.50.000)
| 国名 | 輸出量(トン) | 輸出金額(億円) | 輸出金額の割合(%) |
|---|---|---|---|
| アメリカ | 2139 | 135 | 21% |
| 台湾 | 2094 | 113 | 18% |
| 香港 | 1458 | 77 | 14% |
| カンボジア | 901 | 67 | 11% |
| その他 | 3521 | 244 | 27% |
| 合計 | 10113 | 636 | 100% |
貿易統計(財務省)を元に当サイト作成(HSコード:0201~0202 牛肉 )
| 国名 | 輸出量(トン) | 輸出金額(億円) | 輸出金額の割合(%) |
|---|---|---|---|
| 香港 | 359 | 8 | 67% |
| フィリピン | 334 | 4 | 33% |
| その他 | 18 | 0 | 0% |
| 合計 | 711 | 12 | 100% |
貿易統計(財務省)を元に当サイト作成(HSコード:1602.50-000 、牛肉調製品)
日本の牛肉輸入量は、1991年の自由化以降に急増し、一気に輸入量が増えました。主な輸入先はオーストラリアとアメリカになります。オーストリア産牛肉は広大な牧草地での放牧が中心。草を主体に育てる「グラスフェッド」が多いのに対して、アメリカ産牛肉は穀物(トウモロコシ・大豆など)を中心に大量の飼料を与える「フィードロット方式」が主流で、脂肪が入りやすく、ジューシーで柔らかい肉質となります。
貿易統計(財務省)を元に当サイト作成
| 国名 | 輸入量(万トン) | 輸入金額(億円) | 輸入金額の割合(%) |
|---|---|---|---|
| オーストラリア | 25 | 2129 | 47% |
| アメリカ | 18 | 1802 | 34% |
| カナダ | 4 | 281 | 8% |
| ニュージーランド | 3 | 311 | 6% | その他 | 3 | 224 | 6% |
| 合計 | 53 | 4747 | 100% |
貿易統計(財務省)を元に当サイト作成(概況品コード:0030501牛肉)
| 国名 | 輸入量(トン) | 輸入金額(億円) | 輸入金額の割合(%) |
|---|---|---|---|
| オーストラリア | 5973 | 58 | 61% |
| アメリカ | 4661 | 22 | 23% |
| 中国 | 666 | 6 | 6% |
| ニュージーランド | 200 | 6 | 6% |
| その他 | 63 | 4 | 4% |
| 合計 | 11788 | 96 | 100% |
貿易統計(財務省)を元に当サイト作成(HSコード:1602.50)
同じ肉類でも豚肉や鶏肉は状況が異なります。それぞれの構造を比較してみると興味深いです。
→ 豚肉の構造を見る
→ 鶏肉の構造を見る
最終更新日:2025年6月25日